フェルミ推定

大まかな推測の連鎖を組み立て、それぞれにどの程度の誤差があり得るかを見積もってみましょう。直感的な精度のイメージと、実際の計算から導かれる精度の違いをツールが示してくれます。

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最悪のケースは729倍、しかし実際には2.85倍に収まる

六つの要素それぞれの誤差を×3に設定し、最悪のケースと典型的な誤差を並べて見てみましょう。最悪のケースは、すべての推測が同じ方向に外れた場合の 3⁶ = 729 です。典型的な誤差は 2.85。86%の確率で、真の値の十倍以内に着地します。この差こそが、手法の価値そのものです。フェルミ自身の推定はさらに精密でした。彼はピアノの所有世帯数より、シカゴの人口をずっと正確に知っていたからです。彼の計算では100人の調律師という答えに着地し、誤差範囲は2.8。実に98%の確率で十倍以内に収まっています。六つの数字を一つも調べることなく、十分に議論の土台となる答えを出せるのです。

対数をとれば、掛け算は足し算になる

要素を掛け合わせたからといって、誤差が単純に積み上がっていくわけではありません。数字を掛けるという操作は、対数を足し合わせるのと同じことだからです。独立した事象の足し合わせは二乗和の平方根で計算されるため、n 個の要素がもたらすばらつきは n ではなく √n に比例して増大します。そのため、6つの要素の不確実性は1つの要素の6倍ではなく、2.4 倍にとどまります。これはつまり、7つ目の要素を追加することで、要素あたりの推定精度がむしろ向上するという事実を示しています。プリセットで連鎖の長さを変更し、最悪のケースと比べて誤差範囲がはるかにゆっくりとしか広がらない様子を観察してみてください。

手法が破綻するケースと、ドレイクの方程式が有名な理由

推定が破綻するとき をクリックしてみましょう。5つの要素の誤差が ×3 で、1つだけが ×10,000 に設定されています。これは、文明がどれほどの期間にわたって通信を続けるかについて、ドレイクの方程式が私たちに受け入れを求めている条件とほぼ同じです。誤差範囲は一気に ×246 に達し、真の値が10倍以内に収まる確率は 32% まで低下します。そして不確実性の割合の列を見ると、このたった1行に 93% も不確実性が集中していることがわかります。誤差が互いに相殺されるには、ある程度範囲の定まった誤差であることが前提となります。シカゴの人口は 50% 以内の精度で把握できているため、ある要素を過大評価し、別の要素を過小評価したとしても、結果的に精度が向上する恩恵を受けられます。しかし、ドレイクの方程式における最後の要素は、誰も4桁の精度でさえ把握していません。相殺できるものが存在しない以上、√n の法則は無力です。ドレイクの方程式のページでは、この現象のもう一つの側面について語られています。掛け算の連鎖は、最も弱いリンクから崩壊していくのです。

全プロセスの詳細解説

  1. 500,000の都市が1年間に飲む水のリットル数 7 ステップ

    人口500,000人の都市が1年間に消費する飲み水の量は何リットルでしょうか。すべての数字を推測し、その推測がどのような誤差を生むかを計算してみてください。

    1. まずは計算の連鎖を組み立てます。シャワーなどの生活用水は除外し、飲み水だけに絞りましょう。一人一日あたり約2リットル、365日、そして五十万人です。

      2×365×500,000=365,000,0002 \times 365 \times 500{,}000 = 365{,}000{,}000
    2. 三億六千五百万リットル。では、それぞれの要素にはどの程度の誤差が許容されるでしょうか。人口は国勢調査の数字なので、×1.2とします。2リットルという数字は純粋な推測です。3リットル飲む人もいれば1.3リットルの人もいるため、こちらは×1.5と見積もります。一年の日数は正確です。

      σi=ln⁡ki3:ln⁡1.53=0.234,ln⁡1.23=0.105\sigma_i = \frac{\ln k_i}{\sqrt{3}}: \quad \frac{\ln 1.5}{\sqrt3} = 0.234, \quad \frac{\ln 1.2}{\sqrt3} = 0.105
    3. 誤差が×kの各要素は、対数のばらつきに対して ln(k)/√3 の寄与をもたらします。そして、独立した寄与は二乗和の平方根として加算されます。

      σ=0.2342+0.1052=0.257\sigma = \sqrt{0.234^2 + 0.105^2} = 0.257
    4. 標準偏差一つ分は係数1.3に相当します。したがって誠実な答えは365百万リットル前後となり、ここから30%以上外れることはまずないと考えてよいでしょう。

      e0.257=1.29e^{0.257} = 1.29
    5. これを、直感的な懸念と比べてみてください。もし二つの推測が同じ方向に外れたなら、誤差は 1.2 × 1.5 = 1.8 となります。しかし実際のばらつきは 1.3 です。この二つの数字の差にこそ、わざわざ推定を行う意義があるのです。

      1.2×1.5=1.8vs1.291.2 \times 1.5 = 1.8 \quad \text{vs} \quad 1.29
    6. この √n の論法が成り立つには、誤差が独立であることが不可欠です。もし古いデータから人口を推定し、同じデータを世帯数の計算にも使ったとしたらどうなるでしょうか。あなたは一つの間違いを二度犯したことになり、誤差が互いに打ち消し合うことはありません。

      σtot=∑σi2  ⟸  Cov(i,j)=0\sigma_{\text{tot}} = \sqrt{\textstyle\sum \sigma_i^2} \;\Longleftarrow\; \mathrm{Cov}(i,j) = 0
    7. これこそが、フェルミ推定が内側からは気づけない失敗のパターンです。だからこそ、この手法は異なる場所から要素を引いてくることを求めるのです。国勢調査、生理学的な比率、カレンダー。独立して間違える可能性のある、三つの情報源です。一つの情報源を三回使っても紙の上では同じように見えますが、そこから導かれる誤差範囲は単なる幻想にすぎません。

      n σ  ⟶  n σ(ρ=1)\sqrt{n}\,\sigma \;\longrightarrow\; n\,\sigma \quad (\rho = 1)

    解答

    約365百万リットルであり、30%以上外れる可能性は低いでしょう。最悪のケースは1.8でしたが、実際の誤差範囲は1.3です。この差こそが手法の成果なのです。ツールがあなたの代わりに確認できない唯一の点は、その推測が本当に独立していたかどうかです。

  2. 一生の心拍数、そしてネズミは本当に少ないのか 7 ステップ

    人間の心臓が一生に何回打つのか、そしてその答えの幅がどれほど広いのかを求めてください。そのうえで、ネズミの心拍が人間より本当に少ないのか、それともそう見えるだけなのかを判断しましょう。

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    1. 五つの行を、好きな順に掛け合わせます。毎分 70 回を 78 年分で、およそ 2.9 × 10⁹ です。

      70×60×24×365×78=2,869,776,000≈2.9×10970 \times 60 \times 24 \times 365 \times 78 = 2{,}869{,}776{,}000 \approx 2.9\times10^{9}
    2. 五行のうち間違えうるのは二行だけです。1 時間の分数、1 日の時間数、1 年の日数はいずれも定義であり、不確実性の割合の列はそれぞれに 0% を割り当てます。残りの心拍数と寿命が 50% ずつを引き受けます。五つの要素が、二つ分の不確実性しか持たないのです。

      σi=ln⁡1.23=0.105  (×2),σ=0.1052=0.149\sigma_i = \frac{\ln 1.2}{\sqrt3} = 0.105 \ \ (\times 2), \qquad \sigma = 0.105\sqrt2 = 0.149
    3. 標準偏差一つ分は係数 1.16 にあたり、パネルはこれを ×1.2 に丸めます。二つの推測が同時に同じ向きへ外れると ×1.4 になりますが、どちらも傾向ではなく上限・下限として宣言されているため、これは裾ではなく壁です。

      e0.149=1.16,1.2×1.2=1.44e^{0.149} = 1.16, \qquad 1.2 \times 1.2 = 1.44
    4. したがって答えは 20 億から 41 億の間にあり、それ以外のどこにもありません。

      [2.87×1091.44,  2.87×109×1.44]=[1.99×109,  4.13×109]\left[\frac{2.87\times10^{9}}{1.44},\; 2.87\times10^{9}\times1.44\right] = \left[1.99\times10^{9},\; 4.13\times10^{9}\right]
    5. 次に、同じ五行を別の二種類の動物で走らせます。三つの定義はそのまま、二つの推測だけが変わります。毎分 600 回で 2 年生きるネズミ、毎分 30 回で 60 年生きるゾウです。

      600⋅60⋅24⋅365⋅2=6.3×108,30⋅60⋅24⋅365⋅60=9.5×108600 \cdot 60 \cdot 24 \cdot 365 \cdot 2 = 6.3\times10^{8}, \qquad 30 \cdot 60 \cdot 24 \cdot 365 \cdot 60 = 9.5\times10^{8}
    6. ゾウの二つの推測は人間のものより緩いので、それぞれ ×1.5 を認めましょう。するとゾウの範囲は 2.1 × 10⁹ まで届き、人間の範囲は 2.0 × 10⁹ から始まります。両者は接してしまい、この比較では何も決まりません。

      k=1.5:[9.5×1082.25,  9.5×108×2.25]=[4.2×108,  2.1×109]k = 1.5:\quad \left[\frac{9.5\times10^{8}}{2.25},\; 9.5\times10^{8}\times2.25\right] = \left[4.2\times10^{8},\; 2.1\times10^{9}\right]
    7. そこで幅を締めます。心拍数も寿命もどちらも測定可能ですから、誰かが調べたことのある動物なら ×1.2 は誠実な値です。するとゾウの上限は 1.4 × 10⁹、人間の下限は 2.0 × 10⁹ となり、範囲は離れます。

      k=1.2:[9.5×1081.44,  9.5×108×1.44]=[6.6×108,  1.4×109]k = 1.2:\quad \left[\frac{9.5\times10^{8}}{1.44},\; 9.5\times10^{8}\times1.44\right] = \left[6.6\times10^{8},\; 1.4\times10^{9}\right]

    解答

    およそ 2.9 × 10⁹ 回。誠実な範囲は 2.0 から 4.1 × 10⁹ です。 五行のうち三行は定義であり、疑いをまったく背負いません。だからこそ五つの要素がここでは二つのようにふるまいます。人間がネズミやゾウより数倍多くの拍動を得るのは事実ですが、推定がそう言えるのは、その動物自身の推測を ×1.2 まで締めてからです。×1.5 では範囲が重なり、二つの点推定の差には何の意味もありません。二つの推定の差を信じる前に、どんな場合でも問うべきことです。

    σ=∑iσi2,σi=0  ⟺  ki=1\sigma = \sqrt{\textstyle\sum_i \sigma_i^{2}}, \qquad \sigma_i = 0 \iff k_i = 1

学習の道すじ

桁の概念

参考文献 (2)
  • Why independent errors combine in quadrature rather than accumulating Taylor, J. R. (1997). An Introduction to Error Analysis: The Study of Uncertainties in Physical Measurements (2nd ed.). University Science Books — Chapter 3, on propagation for products and quotients.
  • The piano-tuner problem itself Weinstein, L. and Adam, J. A. (2008). Guesstimation: Solving the World's Problems on the Back of a Cocktail Napkin. Princeton University Press.